したが、彼は何のてらいもなく答えた。
その質問に他意などなかったに違いない。自分が劣等感から過剰反応してしまっただけだ——悠人はそのこと を自覚してきまり悪さに目を伏せた。有栖川学園では、中等部の八割くらいが初等部からの内部進学だと聞いている。話からすると大地は初等部からの内部進学 生なのだろう。そして、悠人はその初等部を受験して不合格になっていたのだ。
悠人の一族は代々多くの警察官僚を輩出しており、悠人もその役目を 期待されていた。物心ついたころからそう言い聞かされ、有栖川学園への入学も当然のように定められていた。しかし、悠人は何もかも勝手に決められることに 反発し、受験の面接時にひとことも発しなかったのである。それが幼い悠人にできる唯一の抵抗だったのだ。
当然ながら有栖川学園は不合格となり、 私立の小学校に通うことになった。そのことで悠人は父親に見限られた。もうおまえには何も期待しない——凍りつくような冷たい目でそう言われ、実際、話し かけられることもなくなった。父親の期待はすべて従順で優秀な弟が背負っている。
有栖川学園の中等部を受験したのは悠人自身の意思だ。決して父 親の関心を取り戻そうと思ったわけではない。不合格という心のたかっただけである。それでも心のどこかでは期待していたのかもしれない。父親 が合格を知っても何も言ってくれないことに、ひそかに落胆していたのだから。
「じゃあさ」
「おい橘、ここ俺の席だぞ」
大地が話を続けようとしたそのとき、入学式前にその席に座っていた男子が割り込み、大地の背中に腕をのせて体ごと寄りかかってきた。怒っているのでは